怖かった。
ここは雪がついている時はやめたほうがいい。
甲斐大和駅8:10→取付き8:57→11:45米沢山12:01→お坊山12:51→13:16大鹿峠13:24→14:59笹子駅
取付きから米沢山まで休憩込みで3時間近くかかっている。雪が無ければ2時間かからないだろう。ずるずる滑る雪と落葉に苦しんだ。
米沢山から先は、滑りやすいのは変わらないが滑落するようなところは無し。
東峰分岐から大鹿峠へは一変して、爽快な急下り。
最初から最後まで誰とも出会わず、トレースもずっと無かったが、東峰分岐からしばらく下ったところで複数の足跡が出てきた。
どこへ登るか決めきれないまま電車に乗りこんだ。
降りる候補の駅をなんとなく過ぎてしまう。鳥沢、大月、初狩。
笹子で降りて浜立尾根を登ろうかとも思ったが、腹が減ってきてたので甲斐大和で降りてコンビニへ寄っていくことにした。
コンビニで腹ごしらえをしながら行き先を考えるが、思いつくどれもピンとこない。雪が積もってるから軽めにしとこうということは決まったんだけど。
ずっとコンビニにいるわけにもいかないので、駅に戻って身支度をしていると、上日川峠行きのバスが横付けされた。すごい人の列だ。これに乗りたくはないなあ。
米沢山北尾根でいいか、短い尾根だし。
駅を出て国道20号線を東へ向かい、日川にかかる橋を渡る。
前回はこの左下に架かっている、車が通れない橋を渡ったが、遠回りになるので今日は国道をそのまま行くことにした。車が頻繁に通るので怖い。
今なら歩道無しってちょっと考えられないが、古い道だとまあありがちだ。
前回渡った橋。奥の吊り橋の方。
これはこれで危なそうに見える。
国道の橋を渡りきって少し歩くと甲斐大和道の駅があり、そこでジュースを飲んで身支度をした。
もう売店も開く時間になってしまっている。さっさと行くか。
道の駅の入口から続く林道に入り、しばらく歩く。
三月に笹子雁ヶ腹摺山北尾根を登ったとき発見した、米沢山北尾根の登り口。
巡視路を示す杭が目印だ。
数日前に降った雪の上にたくさん葉が落ちていた。標高の低いとこはまだ充分紅葉が残っていて、見頃と言ってもいいぐらいだ。今年の初雪は早かった。
道の跡は薄くわかるし、目印もたくさんある。でも雪がぐずついてるので、ずるずる滑り厄介だ。
急なところでは、足先を蹴り込んだり、蹴り込んだ先の落葉をほじくり出して、ぎゅっぎゅっと土を踏み固めながら進むことになった。チェーンスパイクにつく団子も頻繁に落とさないといけない。
暗い北面の我慢の登りがしばらく続く。
寒々しく暗い斜面から、日当たりのいい尾根へ上がりきった。ぽかぽかした光にほっとする。
取付きから50分、標高でいえばちょうど半分ほど登ったとこなので、あと一時間くらいだろう。
地形図を見ると、この先頂上まで急登が三箇所ほどあるようだが、どれも50mほど登ればいいだけのようだ。
暖かな光に気持ちがなごむ。ここで休憩をとったが、このあとすぐに鉄塔があって長めが良かったのでもうちょっと待てばよかった。
1100mぐらいから雪が一段深くなった。といってもスネぐらい。
鹿と小動物の足跡が続いている。ひさしぶりの景色だ。あっという間に夏も終ってしまった。
1211m手前は短いがきつい登りになる。雪と落葉の団子をこまめに落とす。手も使い、木にすがってピークにたどり着いた。
ここから鞍部へ少し下ったあと、米沢山へは標高差180mほどしかない。もう少しだ。
「よし、いけるいける」 自然に、安堵と鼓舞の混じった声がでた。
が、問題はここからだった。
鞍部から急登に取り付く。岩と雑木の細尾根だ。こまめに足の置きかたを変え、木を掴んで強度を確かめ、体を引き上げる。まるでクライミングだ。
足裏の団子をこまめに払う。雪へ足を蹴り込んでも何度も足が滑った。
さっきまで仲良く歩んだ鹿の足跡は、急な雪斜面を悠然とトラバースして登っていく。僕はその斜面を、両手を雪へ突っ込み、四つ足で岩尾根へ這い上がった。
いや、こりゃ引き返すってわけにもいかなくなったな......。
細い岩尾根の右斜面で、上に伸びる黒い筋は鹿のとおった跡だ。普通なら4秒くらいで通り抜けるだろうこの区間に7分くらいかかった。
この鹿の通った跡に右足をそっと乗せる。次の左足を雪面に乗せたところでずるっと滑ってしまった。蹴り込んで均そうにも足元が不確かなので派手に動きたくない。いったん戻ろう。
ゆっくりと元いたところへ戻り、また慎重に踏み出す。右側は切れ落ちていて、きわは脆いのでなるべく内側に足を置くようにした。雪と落葉をどけて二歩目を乗せる。三歩目をそっと、次の四歩目でまた左足が滑った......。う~ん......戻ろう。
ゆっくりゆっくり体の向きを変え、最後は木に掴まって元いた場所へ戻る。どうしよう...。木があればいけるんだけどなぁ。
直接尾根へ登るのは急で無理だ。少し降りてルートを取り直そうかとも考えたが、下を見ると無事に降りれそうな気がしない。ここへ来るのだって厳しかったのだ。やはり今のルートを行くしかない。
三度目を慎重に踏みだす。さっき滑った、四歩目を乗せるところの雪と落葉を手と足で払い、蹴り込んで足を乗せる。
ここで向きを左に変え、斜面を上がることにした。岩の横の雪と落葉を手で払い、土をほじくったとこへ右足を乗せる。今度は岩の上の雪を払って左足を乗せた。よし、しっかりしている。すっと気分が落ち着いた。岩を掴み、木を掴んで尾根へ這い上がった。
ずっと前から見えていた頂上が、やっと手の届くところまで近づいてきた。
こんな変哲のないところでも、木がなく身ひとつだとずるずる滑って苦労する。いつものことだけどほんと木には助けられた。さっきのところも木があればだいぶ楽だったと思う。
やっと到着。
陽だまりとトレースを期待していたがどちらもなし。笹子雁ヶ腹摺山を往復する人はいたのかもしれないけど、米沢山手前には鎖場があるのでここまで来る人はいないんだろう。展望もないとこだし。
写真だと青空も写っているが、山頂は雲に覆われ、風が舞っていた。
この稜線は天気の分かれ目になることが多く、この日も雲が甲府盆地の方へ行こう行こうとしていたが、稜線上空で見えない壁に跳ね返されていた。
ここから林道までコースタイムで2時間半ほどだが、この調子だと1時間くらい多めに見といたほうがいいだろうか? 暗くなる前、15時半か遅くとも16時には林道に降りていたい。あと4時間。さっさと先へ進もう。
ここからの下りも急で神経を使ったが、さっきまでと違い滑落するようなところはなかった。
ウサギと鹿の足跡だけの雪面にひとりきりという喜びは感じたが、稜線の真ん中にひとりきりという不安、隔絶感のほうが大きい。曇った空がそれに拍車をかける。ペースが早くなりがちだったので、気付いたら落とすようにした。怪我でもしたらヤバい。
お坊山12:50着。
順調だ。張り詰めていた気持ちの半分くらい緩んだ気がした。大きく息を吐く。
甲府盆地方面。真ん中が米沢山北尾根だろうか?
雲がこの稜線を越えれないのがよく分かる。稜線の外はすっきり晴れているんだけど。
東峰への分岐に着く。
滝子山が見えた。あっちは人多かったかな。
大鹿峠への急下り。
この下りは気持ち良かった。2月の鶴ヶ鳥屋山を思い出した。
雪の質のせいなのか量のせいなのか分からないが、これまでよりも滑りづらかったのでガシガシ下れた。鹿の足跡を追ったり追わなかったり、気楽に楽しく降りていった。
途中尾根が分かれるあたりで慎重に方向を見極めて歩いていると、いつの間にか靴跡のついたトレースがあるのに気づいた。同じ道のりを往復した複数の人の足跡に見える。お坊山へ行こうとして途中で引き返したのか。
なんにせよ、尾根がいくつか分かれて迷いやすいところだったので助かった。
13:16 大鹿峠。思ったよりあっさりここまでこれた。気持ちもだいぶ落ち着いている。
景徳院へ降りるつもりだったが、急登を少し登ったところでなんかもう嫌になり、引き返して笹子へ下ることにした。トレースもそっちへついているので心強い。
滑落していたらどうなってただろう? そうなってても全然おかしくなかった。
即死という場所ではなかったが、何十メートルかは落ちていたと思う。問題はそこからどう行動しただろうということだが、怪我をしてなければ登り返せそうなところまでトラバースしていっただろうと思う。怪我をしていたらもう状況次第なので想像できない。
引き返すのはほとんど無理だなと冷静に考えてはいたが、引き返す気持ちはまったく自分の中に見当たらなかった。
あの細尾根も雪がもう少し積もってて、固くなってればまだ楽だったように思う。でもそれはあくまで登りの話しで、下る自信はまったくない。
あそこは雪のないときに必ずまた再訪したいと思う。
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