2016年12月7日水曜日

2016.11初旬 十二山尾根(笹嵓尾根)から三ツ頭 八ヶ岳廃道探索その1





十二山尾根は八ヶ岳南端の前三ツ頭に端を発する尾根で、かつていくつもあった南麓から権現岳へ登る尾根道のうちの一つだったという。笹嵓(ささぐら)尾根という呼び名もある。

現在インターネットで調べると、この尾根は十二山尾根との表記が主で、これは昭和十八年発行の「日本山岳案内12 八ヶ岳火山群」という本(読みたい!ほしい!)によるようだ。
一方で武田久吉著「明治の山旅」の、明治三十八年八月に権現岳へ登った記録の中には、「笹嵓尾根を下ったが、この尾根には径があるか無いのか」という文が出てくる。

嵓というのは岩の意味らしく、実際歩いてみて笹嵓尾根という名はすんなり納得できた。
でも十二山尾根って変わった名前だ。周りに十二も山は無いしな・・・ と不思議に思い調べてみたが、十二山神、十二様というのが山の神様らしいので、たぶんそこからきてるんだと思う。
どっちを使ってももいいんだけど、現在十二山尾根という名前が定着しかけているようなのでそっちを主表記にした。



四年くらい前、地図を見ていて最初に気になったのは大日向尾根(名前は当時知らなかった)だった。
ツバメ岩から前三ツ頭まで綺麗にとおっている尾根を地図で見て、これ歩けるんじゃないか? と思ったのだ。
そうは思っても、実際に歩くというのは当時登山道以外を歩くことが皆無に近かった自分にはとお〜い行為だったので、とりあえずあの辺を散策がてら偵察してみることにした。2013年5月のことだ。

甲斐小泉駅から鐘掛松を過ぎ、三味線滝で八ヶ岳横断歩道に入り東へ向かう。
8番標識の立つ、道が直角に曲がるところに差し掛かると、左手に笹と雑木の平坦な原が広がっていて、その中にポツンと看板が立っているのに気づいた。
なんであんなとこに看板があるんだ?
近寄って見てみると、「あなたがここに来るまではきれいだったと言われぬように」と彫ってある。でもその前には沢に落ちこんでいこうとする笹原が広がるだけで道の形跡は見当たらない。元は道があったけど消えてしまったんだろうか? 休憩広場の名残か? 
周辺をしばらく歩きまわったり山側の方へも少し進んでみたけど、道の跡やテープなど人の痕跡はまったく見つけられなかった。
釈然としないままそこを離れ、そのあとツバメ岩へも寄ったけれど、頭の中はさっきの笹と雑木の原が占めるばかりだ。
よし、もうちょっと経験を積んであそこから登ってみよう。




鐘掛松 8:14 → 8:57 八ヶ岳横断歩道8標識 9:04 → 11:34 前三ツ頭 11:41 → 12:07 三ツ頭 12:31→ 八ヶ岳横断歩道5標識 14:00 → 14:04 八ヶ岳神社 14:11 → 鐘掛松 14:26 → 小荒間交差点 14:34 → 15:08 甲斐小泉駅

最大標高差:上り 1235m・下り 1550m
行動時間:6時間54分 歩行時間:5時間59分




― 鐘掛松から取付き(8番標識)まで 

分岐から8番標識までの道は登山地図には載ってないが、幅広でよく整備された道がとおっている。作業道兼ハイキングコースといったところか。
登山地図には載ってないこんな道が南麓にはいくつもあるようで、途中にふたつあった標識のところはどちらも右下から道が上がってきていた。



小淵沢でタクシーに乗り、鐘掛松で降ろしてもらう。
運転手さんがほんとにここでいいんですか? といぶかしげに聞いてきた。
東へもう少し進んだゲートのとこまで行ってもらってもよかったが、この時点でどういうルートで歩くかまだ迷っていたので、とりあえずここで降ろしてもらった。タクシー代は2700円ちょっと。

お地蔵様(道祖神?)に挨拶して出発。

鐘掛松は十字路になっていて、ここで林道が分岐している。
西へ向かうのが大平林道で観音平直下の防火帯を横切っていく。東へ向かうのは並木上林道で大日向尾根へ当たった辺りで終わる。
この辺りは山火事が多く、昔ここに火事を知らせるための鐘が松の木に掛けてあったため、鐘掛松というのだそうだ。


並木上林道を5分ほど東へ歩くとゲートがあり、車が数台停めれる広場がある。
三年前に来た時は、ちょうどレース前だったらしくここに車を停めてトレランする人達が何組かいた。

ここで左の看板が立っている方へ入る。三味線滝へ続く道だ。
この道は後半だいぶ荒れてくるが、前回来たとき、その荒れた草道いっぱいに小さい花が咲いていて、あぁ数週間後のレースで壊滅してしまうんだろうなと思いつつ、できるだけ踏まないように歩いた。でも踏まずには進めないほどだったなぁ。。。


右手に分岐があらわれる。壊れた標識が立っていた。右折すると十二山尾根へ向かう。
三味線滝へ行くつもりだったのでいったん通り過ぎたが、どうせならより尾根の末端から登ったほうがいいなと思い直し、引き返して分岐から十二山尾根へ向かった。


どんな道だろうと思ったら、木段が着けられ、幅が広く、整備も行き届いていてとても歩きやすい。ここを歩くハイカーなんてめったにいないはずだけど......。 ここもトレランのコースなんだろうか?

途中二箇所、こんな標識が建てられている


さあ着いた。三年半ぶりだ。ちょうど八ヶ岳横断歩道が直角に曲がるところで、左が観音平、右が天女山方面。
僕が行くのはこの真ん中だ。




ー 取付き(8番標識)から前三ツ頭 ー

薮はなく、笹も膝ほどの高さなので歩きやすい。
道らしい道は皆無に近いけど、上のほうで踏み跡を部分的に見たのと、下部で一箇所、三味線滝のほうから上がってくる尾根と交わる辺りに明遼な踏み跡があった。そっちがもともとの十二山尾根を登る道なのかもしれない。
大日向尾根と合わさるあたりで最初のテープを見るまで目印はなし。ただ、そこからは過剰と言えるほど新しい赤テープがつけられていた。
標識は、御神楽尾根と合わさるあたりでひとつだけ見たが、字は完全に消えていて読めない。標識の残骸だ。
石碑などの遺構は見なかった。


最初は草地の上を進んだが、笹が途切れている左側を途中から歩いた。
けもの道らしき跡はあったが、鹿のフンはほとんど見かけなかったから今はいないようだ。


高みを目指すだけなので難しくはないし、写真のとおり下草の背が低く歩きやすい。


前方に岩が見えていて、そこに着いたらなんと踏み跡が左の三味線滝のほうから上がってきていた。
なんだ~、あっちから道あったんだ。

踏み跡の横の木に鹿の角らしきものが掛かっている。鹿が届く高さじゃないから、ここを通った人が引っ掛けていったんだと思う。

先へ進むと踏み跡はすぐに分からなくなった。というか迷いようがないところなので特に跡を追って歩くことはしなかった。


すぐに砂礫と松の少し開けたところに出た。
隣のアトノ尾根から三ツ頭、前三ツ頭と、魚眼レンズで見たようにぐるっと見渡せる。第一段階突破だ、という気になったが、取り付きからまだ100mちょいしか高度を上げてない。


誰か積んだのかな?


二度目の砂礫地。急登だ。砂に足がとられる。



大日向尾根と合わさるあたりで、今日初めてのテープ発見。おっと声が出た。元は赤色だと思われるがだいぶ色褪せてる。
分岐の目印だろうか?


樹林帯を抜けたところで、岩に腰かけ今日最初の休憩。
正面のアトノ尾根にヘリポートが見えた。右の小さい盛り上がりが木戸口公園だ。


こんな火山らしい風景が随所で見れる。
隣のアトノ尾根や編笠山とは雰囲気がだいぶ違う。


さっき初めてテープを見た後は、剥がしてまわりたい衝動にかられるほど真新しい赤テープが多かった。尾根上に点々とつけている意味がわからない。分岐や巻道の目印としてつけるんならわかるんだけど。


古い標識があった。写真のとおり字の痕跡も見えないが、下に矢印があるのがわかる。矢印の上にはなんて書かれてたんだろう。
御神楽尾根と合わさるあたりだが、ここが降り口なんだろうか。

ここを過ぎるとイワカガミが目立つようになってくる。尾根上が岩場だったので、赤テープに従って尾根の右側を歩いてたら群生に入ってしまい、あわてて尾根へ上がった。
今度来たら注意しよう。



砂礫地と森林帯が交互に出てきて、岩もあり、変化があって良い尾根だと思う。展望が素晴らしいので下りのほうがそれを満喫できていいと思うが、今の僕にはちょっと荷が重い気がする。もうちょっと登りで歩いてから下りで使ってみよう。




馬の背状のところに出た。
砂の色がきれいに分かれてるのが不思議だ。なんでこんなになるんだろう。



馬の背を渡りきると大岩が目立ってくる。


11:34 前三ツ頭着。

前三ツ頭まで登ったら材木尾根を下ろうかと考えていたが、いっぺんにどっちも歩くのはもったいない気がした。
今日は念願だった十二山尾根だけにしてその記憶を味わいたい。うん、それがいい。材木尾根はあらためてまた来よう。


12:07 三ツ頭
ここで昼飯。西風が強く、寒いのでささっと食べた。

槍、穂高がくっきり見えている。
初めて編笠山に登ったときにおじさんから、「あ、槍が見えてますよ、あれが大キレットでー」なんて話しかけられてもピンとこなかったしまったくどうでもよかったが、自分が歩くと愛着が湧くもんで、しばらくあれが常念であれは水晶かな〜なんて目で追っていた。

日陰にわずかに雪が残ってる。


アトノ尾根を下って甲斐小泉駅まで歩くことにする。十二山尾根が見えるところが数ヶ所あって、いままではなんか禿げた尾根があるんだなくらいしか思わなかったが、やはり一度歩くと愛着が湧き、富士山より先にこの尾根を熱心に目で追っていた。


八ヶ岳横断歩道を突っ切る。
地図だと単調に見えるアトノ尾根の道は、沢状のところをトラバースしたり、尾根を何度か乗り換えたりと、単調な中にも、なんでこんな道のつけかたなんだろうと興味を引かれるところはあった。


八ヶ岳神社でお参りして休憩。ここまでの今日の無事を感謝する。
三ツ頭から休憩なしで一気に下ってきたからヘトヘトで、足が重いし痛い。


鐘掛松に戻ってきた。


別荘地を抜けて甲斐小泉駅へ向かう。



後回しにしていたこの尾根を登ることができてホッとしたし、気分がいい。
「笹嵓尾根を下ったが、この尾根には径があるか無いのか」という明治三十八年の時点と、たぶんほとんど変わってないんだろうと思えて、なんとなく嬉しい気になれた。
あと四つも順次登っていこう。次は材木尾根か御神楽尾根だな。





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